あなたの溺愛から逃れたい
「って、あら! 若旦那様! 失礼致しました!」

まさか創太がここにいるとは思わなかっただろう吉野さんは、丸い二重の瞳を更に丸くさせ、頭を下げる。


「いや、とんでもない。たまたま通り掛かって、逢子さんと少し雑談していただけですから。リンゴ、僕もいただいていいですか」

さすがに話を続ける気はなくしたらしい創太は、何事もなかったように、いつもの柔らかい笑みを浮かべて吉野さんに返答する。
吉野さんも、私と創太が何を話していたかなどは一切気にしていない様子だ。


「さあさ、逢子さんもリンゴどーぞ」

吉野さんが差し出してくれたリンゴを、私も一つもらう。


吉野さんは「甘い、美味しい」と連呼しながらリンゴを口にしていたけれど……


「……本当。美味しいですね」


私には、何故か酸っぱく感じた。
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