あなたの溺愛から逃れたい
「そうしたらね、『勝手にしろよ』って言ってきたの。昨日はあれだけお見合いを拒否していたのにね。だから、逢子ちゃんが創太のことを説得してくれたのかと思って」

女将の言葉に、私はふるふると首を横に振った。


「説得なんて……。私は、自分の気持ちを伝えただけです……」


そう。創太には私以外の女性の方が相応しいというその思いを創太にぶつけただけ……。


創太、やっぱりお見合いすることにしたんだ……。
何ガッカリしてるの、私。これで良かったはずなのに。創太はお見合い相手よりも私のことを選んでくれるって思ってたの? 馬鹿じゃないの、私。


「それより……いつから気付いていたんですか? その……私と創太の関係……」

どんどん小さくなっていく声で、恐る恐るそう問い掛ける。
知るのは怖いけど、事実をきちんと知りたい。


すると女将は、さっきと同様、柔らかい声で。


「確信はないけど、多分初めからよ」

「え?」

「あれは確か……二人が高校生の時ね」

記憶を辿るように、視線を宙に彷徨わせながら女将は話を続ける。


「いつもは学校から真っ直ぐに帰ってきて旅館を手伝ってくれるのに、二人揃っていつまでも来なくて。
夜になってようやく来てくれたと思ったら、二人とも何だか赤い顔をして、ソワソワして。
お互いに目を合わそうとしないのに、お互いのことをチラチラと盗み見ていたから」

「そんなことで、分かっちゃうんですか?」

驚いて、口元を手で覆ったまま思わず固まりそうになる。

すると、女将は。


「何となくだけどね。分かるのよ。


私の子供だから……〝二人とも〟ね」
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