あなたの溺愛から逃れたい
「ありがとう、逢子ちゃん。さあ、涙を拭いて」

女将の人差し指が私の目元に軽く触れ、涙を拭ってくれる。


「はい。すみません。一度部屋に戻って化粧を直したらすぐに持ち場に戻ります」

私がそう伝えると、女将は「分かったわ」と言ってくれる。


そして、女将は去り際に。



「私にこんなことを言う資格があるのかどうかは分からないけれど、逢子ちゃんにも素敵な男性と素敵な恋愛、そして素敵な結婚をしてほしいって思っているわ」


そう言ってくれた。



部屋に戻って、化粧を直しながらぼんやりと考える。


素敵な恋愛、かぁ。


今はまだ、創太のことばかり考えてしまって、次の恋を考える余裕なんてない。ましてや、結婚なんて。


だけど、いつか。


本当にそんな人と出会えたら。


その時は幸せになれるのかな……。



ううん、今が不幸せみたいな言い方をするのはやめよう。


創太は私のことをたくさん愛してくれた。

女将も私にたくさん気を遣ってくれた。


世の中にはそういうこともある。上手くいかないこともある。それだけのことだ。


化粧を直し、気持ちを落ち着かせると、私は再び食堂に戻った。
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