あなたの溺愛から逃れたい
あなたとの出会い
小学二年生の時、私は車の事故で両親を同時に失った。

悲しい、と言うよりも、何もかも信じられない……そんな感覚に数日間襲われ続けた。


そんな私を引き取ると言ってくれたのは、父の親友であり、この斎桜館の旦那様ある創平(そうへい)さんだった。


旦那様は私を大切に育ててくれたし、女将である奥様もそれは同じだった。私は引き取ってくださったお二人に感謝の気持ちしかない。


けれど、歴史ある斎桜館で暮らすということは、簡単なことではなかった。



居候とは言え、私も斎桜館の人間として恥じないよう、教育された。

仲居としての振る舞いや佇まい、着物の着方、お客様との接し方等、斎桜館で暮らし始めてすぐに仲居修行が始まった。


授業が終わったらすぐに旅館に戻らないといけなかったから、それまでみたいに放課後に友達と寄り道したり遊んだりすることも出来なかった。

今思えば、この頃から厳しく色んなことを教わったお陰で、私は斎桜館で働く身として恥ずかしくない人間になれたと思う。

だけどこの時の私は、引き取っていただいた恩もそこそこに〝好きで旅館なんかに住むことになった訳じゃない〟と悲観的になっていた。

そんな私の支えになってくれたのが、若旦那様ーーいや、創太だった。
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