あなたの溺愛から逃れたい
翌朝。

私は吉野さんにとあるお願いをした。


担当を変更してほしい、と。


崎本様のお部屋は私の担当だから、私が朝食を運んだり、お掃除をしたりしなくてはいけないのだけれど、吉野さんの担当しているお客様のお部屋と、その担当を交代してもらったのだ。


私はあれから結局、創太の言葉を頭から離すことが出来なかった……。

創太がまだ私のことを想っている……それは、やっぱりどうしても嬉しいと思ってしまう言葉だった。


もちろん、だからと言って創太ともう一度恋人関係に戻ろうと思った訳じゃない。

だけど、もう少しだけ、創太のことを想っていたいと思ってしまったのだ。
無理して思い出にしたくはないと……。


でも、崎本様と一緒にいたら、憧れとか、額へのあのキスとか、女将の言葉とか、色んなものを思い出して、また頭の中がぐちゃぐちゃになりそうな気がした。
だから、吉野さんに担当を交代してもらった。
担当と言っても、お客様につきっきりで何かをする訳ではない。食事を運んだり、お掃除をしたりするくらいで、あくまでお客様の〝お部屋〟の担当というだけだ。なので、吉野さんも特に詳しい事情は聞かずに了承してくれた。


もしかしたら、崎本様に名指しで呼び出されるかもーーとも思ったけれど、それは自惚れに過ぎなかったようで、崎本様のお部屋の担当から外れた私は、彼と顔を合わすことのないまま、あっという間な二日間が過ぎようとしていた。明日の朝、崎本様はお帰りになられる。
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