あなたの溺愛から逃れたい
その夜、いつも通りの片付けをして、自分の部屋に帰ろうとした私は、廊下の窓の外に人影を見つけた。

よく見ると、それは崎本様だった。


ところどころライトアップが施されているから、この時間に庭に出るお客様は珍しくない。
でも崎本様、かなり薄着に見える。
今日は冷え込むし、上着がないと風邪をひいてしまうかも……。


悩んだ。悩んだけど。

私は貸し出し用の羽織を持って、庭に出た。



「崎本様っ」

駆け寄りながら名前を呼ぶと、彼は少し驚いたような表情で私に振り返る。


「逢子さん。どうしたの」

「あの、寒いですから。上着を持ってきました。どうぞ」

そう言って羽織を差し出す時に、思わずくしゃみをしてしまった。

しまった。崎本様への羽織で頭がいっぱいで、自分の分を持ってくるの、忘れた。


「このままじゃ逢子さんが風邪をひくね。俺は大丈夫だから、その羽織は逢子さんが使って」

「い、いえいえ! 私はすぐに戻りますし、どうぞお使いください!」

ずいっと羽織を差し出すと、彼は「そう?」と答えてそれを受け取る。
安心したのも束の間。


「なんてな」

そう言って、彼は一度受け取った羽織を、ふわりと私に掛けてくれる。


「あ、あの、でも……」

「俺なら大丈夫だよ。北海道に比べたらこっちは全然暖かい」

彼はそう答えて、ぐっと背伸びをしてみせた。

確かに、私と違って寒さに身を縮める様子は一切ない。


「そう言えば、崎本様は北海道ご出身でしたね」

「ああ。東京に住んでた時期もあったけど、やっぱり地元が好きで戻ったんだ。
明日帰るけど、さすがにあっちはかなり寒いよ。
……ていうかさ」

「え?」

急に、崎本様がじーっと私を見つめる。
どうしたんだろう、と私が首を小さく傾げると。


「逢子さん、どうして急に俺のこと避けるようになったの」

「え⁉︎」

バ…….バレてた⁉︎
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