あなたの溺愛から逃れたい
「突然キスしたから? まあそれは悪かったと思ってるけど」

「い、いえ、その……!」

どうしよう。何て答えたらいいの? だってまさか〝今はまだ元カレとの思い出を大事にしたいから〟なんて言える訳ない。
あからさまに避けた訳じゃないのに崎本様がそれに気付いてるとは夢にも思わなかったから、動揺を隠し切れない。
私の都合でお客様に不快な思いをさせてしまった⁉︎


そんな私とは対照的に、崎本様は至って落ち着いているけれど、

「俺のキスが原因とは言え、避けられてショックだったな」

とは言われてしまう。


「あ、あの、本当に申し訳なくーー」

「逢子さんをわざわざ呼び出すまではしなかったけど、もっと逢子さんと話したいと思っていたんだ。

……俺と逢子さんが出会えたのは、運命だと思ったから」


……え?

運、命?


どういうことだろう? 崎本様のお部屋を担当することになった私が、彼の大ファンだったからっていうことかな?

でも、崎本様のファンなんて日本中に何万人もいる。きっと今までだって、偶然知り合った女性が自分のファンだった、なんてこと、いくらでもあったと思われる。

そう、偶然。運命と言うより偶然という表現の方がしっくりきてしまい、何と返したらいいか分からず、思わず口ごもってしまう。


すると、そんな私に彼は。


「〝逢子〟って珍しい名前じゃない?」

と、タイミング的によく分からないことを言ってきた。
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