あなたの溺愛から逃れたい
「え、ええと?」

「よく〝あいこ〟って読み間違えられたりしない?」

「それは、確かに」

子供の頃からそうだったな。
〝おうこです〟って答えても、いまいち覚えてもらえずに〝あうこだっけ〟って言われることも何度かあった。


でも、何で今それを聞くんだろう?
彼の言葉の意味が分からずに首を傾げると。


「多分、そうなんだろうなって思ったんだよ。だから、わざわざ自分の名前に振り仮名を振ったんだろ?」

え? 振り仮名?
私、崎本様の前で自分の名前を書いたっけ? ううん、絶対に書いてない。何の話だろう?


まだ黙ったままの私を見つめ、小さくフッと笑うと、彼は言った。


「〝主人公の、天国の両親への想いがリアルに伝わってきて泣きました。私も両親がいないから、余計に〟」

「え?」

何かを読み上げたかのような言葉。でも彼の目線は私を見つめたままだ。


「崎本様……?」

「俺、昔から記憶力だけは人一倍あるんだ。それに加えて、小学生の女の子からファンレターを貰ったのはあれが初めてだったから、強く記憶に残ってる」

「ファン……」

そこまで言われて、ようやく分かった。


今、彼が読み上げるようにして口にしたのは。


「私の、ファンレター……」


小学生の頃、岡崎先生の本を読んで感動した。
お小遣いは少なかったけど、レターセットと切手を買うことは出来たから、その感動を文章にして先生に送ったことがあった。

でも、もう何年も前の話。書いた本人ですら忘れていたのに、それを覚えていてくれたの?
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