あなたの溺愛から逃れたい
翌朝。

「お世話になりました」

荷物を持った崎本様が、旅館の玄関先でぺこりと頭を下げる。

私たち仲居も、総出で「またお越し下さいませ」と声を揃えた後、頭を下げ返す。

創太は今日、神山グループの会合があって早朝から不在だけれど、女将は私の隣に立っていた。

そして、何だかさっきから女将の視線をチラチラと感じる。
崎本様帰っちゃうわよ、どうするの、ということかな……。そう言われても、お付き合いの件は昨日はっきりとお断りしたし、もうこれ以上どうこうということはない。まあ、告白されたことは女将にはまだ話してないけど……。


崎本様は、一瞬私にだけチラと視線を向けた後、小さく微笑み、背を向けて歩き出す。

すると突然、女将が「崎本様」と彼に声を掛ける。

崎本様は立ち止まり、きょとんとした顔でこちらに振り返る。

女将は、他の仲居には「先に戻ってていいわよ」と言いながら、私の右手を掴んで、崎本様の方へと歩いていく。

え、え、何⁉︎


すると、崎本様の正面に立った女将は。


「不躾とは存じますが、この子、崎本様に憧れているらしくて、もしお時間があれば、もう少し二人でお話してあげて下さいませんか?」


ちょ、女将ー⁉︎

何てこと言うの! しかも私は夕べ、崎本様からの告白をお断りしてしまった訳で……‼︎


だけど、焦る私とは裏腹に、崎本様は優しく微笑んで。


「じゃあ、駅まで送ってもらおうかな」

と答える。

女将はにこにこして「遅くならない内に戻ってね」と私に言って、旅館へと戻っていく。
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