あなたの溺愛から逃れたい
同い年の創太は神山家の一人息子で、幼少時代から斎桜館の後継ぎになることが決められた存在だった。

彼は、舞踊や書道やその他たくさんの習い事もしており、私以上に忙しい日々を送っていた。

でも彼はいつもにこやかに微笑んでいて、弱音を吐いたところを一度も見たことがなかった。
彼にとっては当たり前のことで、私とは住む世界が違うんだ、と思ったこともあったけれど、創太はいつも私に話し掛けてくれた。


『忙しくて遊ぶ時間ないよね』

『俺も面倒だよ。この旅館のことは嫌いじゃないけどね』

『本好きなの? 俺の部屋にある本貸してあげるよ』


『創太って呼んでいいよ。俺も逢子って呼ぶから』



大人になった現在でもそうだけど、創太は子供の頃から飄々とした性格で、何を考えているのか分からないところも多かったし、掴み所のない人だった。
だけど、そんな所も嫌いじゃなかった。
御曹司なのに着飾らなくて、いつも私に声を掛けてくれた。
何を考えているのか分かり辛い人だけど、私への優しさからいつも声を掛けてくれていたってことはちゃんと分かってた。

そんな風に、創太はいつも私が辛い時に支えになってくれていた。


とは言え、兄妹みたいに育った関係だから、創太に対して恋心を抱いたりすることはなかったのだけれど。

そんな私たちの関係に少しだけ変化が訪れたのは、私たちが中学二年生の時だった。
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