あなたの溺愛から逃れたい
好きとか、そういう恋愛感情はないけれど、崎本様の優しい雰囲気は一緒にいて落ち着く。口数は多い方じゃないけれど、そんなところも心地が良い。


そんなことを考えていると、あっという間に駅前に到着した。


「それじゃあ改めて。三泊四日、お世話になりました」

立ち止まって、向き合う。崎本様は真っ直ぐに私を見つめながらそう言った。


「本当はもう少し君と話していたいけど。既にフラれてるし、しつこい男と思われて終わるくらいなら、潔く帰るよ」

そう言われると、何と言ったらいいか分からなくて言葉に詰まってしまう。

すると、彼は上着の胸ポケットからメモ帳を取り出し、そこに挟んでいたらしいボールペンで何かを書き始める。

そして、ペンを走らせたメモを一枚破り取ると、それを私に渡してくる。

そこには、LINEのIDと携帯電話番号が書かれていた。


「しつこい男と思われたくないって言ったばかりでこんなもの渡すのもどうかとは思うけど。嫌だったら破り捨ててくれて構わないから」

そう言って渡してきたそのメモ用紙を、私はつい受け取ってしまった。


「じゃあね」

軽く右手を振りながら、彼は駅構内の中へと入っていき、すぐにその背中は見えなくなった。


私は、崎本様に渡されたメモを胸の位置でギュッと握り締める。

破り捨てていいとは言われたけど、そんなことは出来ない……。

でも、私から連絡を取ることはないだろう……。

複雑な気持ちになりつつ、だけど瞼を閉じた時に一番に脳裏に浮かぶのは、やっぱり創太の顔だった。
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