あなたの溺愛から逃れたい
崎本様がお帰りになられた日から、一ヶ月が経った。

創太のお見合いが日に日に迫っている。


崎本様とは、連絡は一切取っていない。
私からはLINEも電話もしていないし、向こうから旅館に連絡が来ることもない。崎本様に告白されたあの日のことは、私の中で綺麗な思い出になりつつある。


でも、創太のお見合いのことを考えると、全身が鉛になったみたいに身体が重くなる。


創太のお見合い相手は、斎桜館と取引関係にある大きな会社の娘さんらしい。
年齢は、創太の一つ上の二十九歳とのこと。

……私が知っているのはそれだけだ。

お見合いの日程は知っているけれど、お見合い会場の場所も、何時からなのかも、私は何も知らない。



そんなある日のこと。


いつも通りの時間に仕事を終え、自分の部屋に戻った。


夕食は休憩時間に既にいただいているから、あとはお風呂に入って就寝するのみ。


お風呂は、他の仲居さんたちは、斎桜館内にある専用の温泉を使う。お客様用の温泉よりは狭いものの、身体を休ませるには充分過ぎるほどの広さを持つ立派な浴場だ。
ただ、私は基本的に神山家のお風呂を使う。一般家庭にあるものと同じような、ごく普通のお風呂だ。

でも、今日は何となく、私も斎桜館の方の温泉に入ろうかと思った。勿論私もそっちの温泉を使ってもいいことになっているし、疲れた日とかは温泉で身体をゆっくり伸ばすことも珍しくない。

今日は、疲れたというより、ここしばらく創太のお見合いのことばかりを考えてしまっているから、気持ち的に疲れているって感じなのだけれど……。
< 51 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop