あなたの溺愛から逃れたい
恥ずかしさを誤魔化すように、私は「う、うん」と早口で答えた。勿論、嬉しさもあったのだけれど。


すると創太は。

「良かった。恋人同士ではなくなったけど、家族っていう大事な存在には違いないから」

私の目を真っ直ぐに見つめてそう言った。


……この前、女将に〝あなたは私の子供〟って言われた時は凄く嬉しかったのに。
今、創太に〝家族〟って言われて……嬉しくない。

女将には、創太のことを家族として見ていってほしいと前に言われたけど……私、やっぱり……。



だけど、自分のそんな考えは口に出せる訳がない。

だから無言で首だけ縦に振ると、創太は突然、


「……あのさ。母さんから聞いたんだけど、逢子、今日お帰りになられた崎本様と上手くいきそうって本当?」

と聞かれてしまった……。

今度は慌てて首を横にブンブンと振る。

ていうか女将……! 何でそんなことを! 確かに、LINEのIDと電話番号を教えてもらいました、とは報告したけれど、それだけなのに!


「ち、違う」

変に誤解されたくないから。ただそれだけ。創太とヨリを戻したい訳じゃない……なんて、心の中で一人で勝手に言い訳しながら、私は崎本様とのことを創太に伝える。

話しやすくて素敵な人だったこと。告白されたこと。帰り際に連絡先も伝えられたこと。だけど、それから何もないこと。

告白をお断りしたのは創太のことがまだ好きだから……というのは勿論言えなかったけど。


それなのに、それを聞いた創太は。


「そうなんだ。何にもなかったんだな。


……良かった」


……小さい声だけど、確かに言った。『良かった』って。

どういう意味?

……創太も、もしかしたら私が思っている以上に、私との関係をまだ割り切れていない……?


でも、別れたことは事実なんだよ。私だって必死に諦めようとしているんだから、お願い……


それ以上私を惑わさないでーー……。
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