あなたの溺愛から逃れたい
すると、突然。


「んっ……⁉︎」


彼に肩を掴まれ、後ろの壁が背中にトンと当たったのとほぼ同時に、彼の唇が私の唇に、触れてきた。

ううん、触れてきたなんて優しいものじゃない。
強く、荒々しく、唇を押し付けられる。


だけど、私もそれが嫌じゃなくて。


普段優しい創太は、付き合っていた頃からこんな激しいキスは滅多にしてこなかった。
いつだって、私にそっと触れて、大事に大事に、してくれてーー。


そんな創太からのこの荒いキスから、逃れたくなくて。


創太の舌が口内に侵入してくる。私もそれに応えた。

お互いの唾液が混ざり合って、私の顎をつたう。


そこでようやく、彼の唇が離れた。


「はぁ……逢子」

親指で私の濡れた口元を軽く拭いながら、創太が熱っぽい目線を私に向ける。

その視線に胸の奥がきゅっと締め付けられて苦しくなる。

ドキドキと、心臓の音がうるさい。切ない。泣きそうになる。


……すると、彼は突然。


「一緒に風呂入るか!」

子供みたいにニカッと笑いながら、明るい声でそう言ってきた。


「……は?」

今、そんなこと言う雰囲気だった? そう感じて、思わず怪訝な表情を彼に向けてしまう。

だけど創太はそれに構わず、私の右手首を掴み、グイグイと引っ張って男湯の脱衣所へと引っ張っていく。


「ちょ、ちょっと創太!」

さすがにマズいって! 付き合ってるとか付き合っていないとかは置いといて普通にマズい‼︎
専用温泉だからお客様は入ってこないけど、男性従業員はいつ入ってくるか分からない‼︎

けど創太は「電気点いてないから誰もいないよ」と言うと、どこからか〝点検中〟の札を取り出し、脱衣所のドアノブに掛ける。そして、脱衣所の鍵を掛けた。

「ちょ、ちょっと。これじゃあ他の男性従業員がお風呂入れないじゃない」

「専用風呂が使えなかったら、お客様用風呂に入るでしょ。専用風呂は狭いから、普段からあっちの風呂しか使わない従業員もたくさんいるよ」

そ、それは確かにそうなんだけど! でも……!

創太は私の戸惑いに構わず、スリッパを脱いで脱衣所に入っていく。

腕を引っ張られているから、私も同じように脱衣所に上がってしまう。スリッパは、脱衣所に上がる前になんとか脱いだ。

でも。

「ねえ、やっぱり駄目」

ようやく手を離してくれた創太に、私は言った。
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