あなたの溺愛から逃れたい
「駄目って、何で?」

「と、当然でしょ。一緒にお風呂なんて……誰も入ってこないとは言え、私たち、もう恋人同士じゃないんだから」

私はもっともすぎることを言っていると思うのだけれど、創太は「家族同士で風呂に一緒に入ってもおかしくないと思う!」とか言ってくる。

馬鹿なの⁉︎ いや、創太が本気でそう言っているとは思わないけど。


そう。創太は私と〝恋人同士〟として過ごそうとしてくれている。それは分かる。

でも、だから、駄目。

さっきは私も、彼からの熱いキスに決意が揺れ、そのキスに応えてしまったけれど……一緒にお風呂は……やっぱり駄目。


だけど……。


「じゃあ一人で入るから別にいいよー。その代わり、逢子もこの男湯の脱衣所から一人で出ていくんだぜ。誰に見られるか分からないけど」

「はい?」

「俺と一緒に出ていくなら、俺が先に出て辺りに誰もいないの確認してやるけどぉー」

こ、こいつ! 脱衣所へは無理矢理引っ張ってきたくせにー!


「わ、分かったわよっ。でも一緒には入らない! 創太が出てくるまでここで待ってる!」

「一緒に入ってくれなきゃ、ここから出る時に協力しません」

「なっ……」

「逢子」

急に、創太の声が真剣味を帯びる。表情も、さっきまでの飄々とした笑顔じゃなくて、もっと真剣な……笑顔なんだけど、悲しそうな、笑顔。


「最後の思い出くらい、くれよ。別れが唐突過ぎたから、未だに心の整理がつかないんだ」
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