あなたの溺愛から逃れたい
私の意思が変わらないと察したらしい彼は、続けてこんなことを言ってくる。


「じゃあ、デートしよう」


……はい?

彼が何を言っているのかその意味が分からず、思わず口を開けて言葉に詰まってしまう。

すると。


「思えば、親の目もあってろくにデート出来たことないしな。せいぜい一緒に買い物行ったりするくらいだ。同じ家に住んでる割には、部屋でイチャつくこともたまにしか出来ないし」

創太が何を言おうとしているのかよく分からなくて、私は首を傾げる。


「だからさ、ちゃんとしたデートしよう。そこで、俺とまた付き合いたいって逢子に思ってもらえるように、俺頑張るよ」

え……?


「逢子、今度の木曜日仕事休みだよな? 俺は仕事だけど、何とか代わってもらおう。
しかも木曜って、母さんもホテル館の会合でこっちにいない日だ。ちょうどいい、うん」

「ちょ、ちょっと待ってよ」

創太が一人で勝手に話を進めてしまっていて、私はついていけない。


「デートって……。また付き合いたいって思われるように、って今言ったけど、私はきっとそうは思わない。どんなに楽しいデートをしたって、私の考えは変わらなから」

胸の痛みを感じながらも、私は自分の考えをはっきりと彼に伝える。どんなに苦しい言葉でも、今しっかりと伝えなきゃきっと後悔することになるから。
だけど。



「それでもいい。一日デートしても逢子の気持ちが変わらなければ、今度こそ諦める。
後悔はしたくないんだ。だから」


後悔はしたくない。それは、たった今感じた私の気持ちと同じで。

そう思ったら、「デートしない」とはこれ以上は言えなくて……


「決まりな」

私が何も答えないのを肯定だと受け取ったらしい彼は、そう言った。


その表情は、笑っていた。だけど、切なそうな笑みだった。
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