あなたの溺愛から逃れたい
当初の約束通り、木曜日の休日に、私は創太と一緒にーー遊園地に来ていた。
斎桜館からは電車で二時間くらいのところにある、有名なテーマパーク。
大昔に、私と創太は旦那様と女将にここへ連れてきてもらったことがある。
けど、ここへ来るのはそれ以来だ。かなり懐かしい。至る所が変化を遂げていて、懐かしさが少々足りていない気もするけど。
「どこに行こうか色々悩んだけど、俺たちには〝普通のデート〟が足りてなさすぎるからな! あえて定番のデートスポットを選んでみた」
ここへ来る途中の電車の中で、創太はそう言ってた。
私のことをデートに誘ったあの夜は悲しそうな顔で微笑んだいた彼だったけど、今日は素直に楽しそうに笑っていた。
だから私も、それにつられるようにしてつい笑ってしまう。
だけど、今日くらいは、って。
今度こそ最後の思い出になるかもしれないんだから、それならいっそ楽しく過ごしてもいいんじゃないかって。そう思った。
「創太さ、今日何かカッコいいね」
だからつい、そんなことを言ってみる。
普段、旅館で一緒に働く彼の姿は、見慣れた着物姿。
勿論、休日は私服で過ごしているけれど、今日はいつもの今日のようなラフな感じではなくて、紺色のジャケットにジーンズ、仕事中は絶対に着かないアクセサリーも首に下げていた。
「創太って、実はそういうチャラ目の格好が似合うよね」
「えっ、嘘。俺チャラい⁉︎」
「似合ってるから問題ないよ」
「ねえ、チャラいの俺⁉︎」
実際はチャラいという印象はなく、素直に『カッコいい』と言ってしまったことへの照れ隠しだった。だけど、焦る創太が可愛くて、私はそうやって誤魔化した。
すると今度は創太が私の服装を改めて見ながら。
「今日の逢子は何かフリッとしてるな!」
フリッ……?
多分、フリルの付いた膝丈スカートを見てそう言ってるんだと思うけど……。
フリッて。褒めてないし、意味がよく分からないし。
創太はたまにこういうところがある。具体的なことを言えないというか。
でも。
「凄く可愛いな」
具体性が全くないその言葉にも、思わずドキンと胸がときめいてしまう。
結局、彼の言葉なら全て過剰に反応してしまうのかな、私。そうだとしたら悔しい。
そんなこんな会話をしていると、あっという間に目的の駅に到着した。創太と話していると、時間が経つのがいつも本当にあっという間に感じる。