あなたの溺愛から逃れたい
私が遮った言葉を続けることはなく、創太はそのまま黙り込んでしまった。
ただ黙って私を見つめる。

私は言葉を続けた。


「創太と一緒にいたらさ、きっと一生楽しいよね。ずっと幸せにしてくれると思うし、素敵な人生になると思う」


じゃあ何で、と創太がようやく口を開いた。


創太が真剣だから、私も真剣に答えなければいけない。

泣いたら、いけない。


「創太、子供がたくさん欲しいって言ったね。私も創太との子供が生まれたら、きっと何よりも愛しくて、何よりも大事にする。
でも……誰からも祝福されないで結婚した私たちの間に生まれた子は、いつか私たちがいなくなった時に、孤独になってしまうよ」


私の言葉は創太にとっては意外なものだったのか、彼は大きな瞳をパチパチと瞬きさせた。


「そんなの……俺たちは子供を置いて突然いなくなったりしないよ」

言った後で、私が言いたいことに気が付いたのか、彼はハッとした表情を見せた。

私が言いたいことは彼には伝わっているだろうけど、私はあえて言葉を続ける。


「いなくなっちゃうこともあるんだよ。……私のお父さんとお母さんみたいに」


いつも通りの朝。いつも通りの日常。まさか、大切な両親をいっぺんに失う日になるなんて、夢にも思わなかった。



「だけど私は、旦那様と女将が……創太のお父さんとお母さんが引き取ってくれた。お父さんとお母さんがいなくなってしまったのは悲しかったけど、引き取ってもらえて救われたの。
斎桜館で過ごす毎日は、大変なこともたくさんあったけど、楽しいこともあったよ。

……創太にも、会えたし」


創太は、ただ黙って私のことを見つめている。


私は、一回目を瞑って深呼吸してから、再び創太に目を向ける。



「お父さんとお母さんがいなくなってからも、そんな風に楽しくて幸せだって思える日が来るなんて思わなかったの。


……その幸せをくれた創太のお父さんとお母さんを悲しませるような結婚は、私には出来ない」


私は創太にそう伝えた。


私の気持ちの全てが伝わるように、ゆっくりと言葉を選び、紡ぎながら。


だけど、気持ちと表情は真逆だった。



あえて




笑顔で別れを告げた。
< 69 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop