あなたの溺愛から逃れたい
私がゆっくりと話していたから、気が付けばゴンドラは地上にもうすぐ到着してしまう。


それまでの間、私たちはお互いにそれ以上言葉を発さなかった。

多分、二人共、何をどう言えばいいのかが分からなくて。

創太を傷付けた。
それは分かるのに、きっとこれが正しい答えだと思う。

創太、私じゃない、いつか出会う運命の人と、幸せになってーー。


その願いは心の中だけで留めておいた。


しばらくして、ゴンドラの位置が乗り場に戻ってきた。

ゆっくりと降り、創太はそのままゲートの方へ歩いていく。

さっきから何も言わないでいる彼の大きな背中を見ると、とても寂しくなる。


「あの、創ーー」

彼の名前を後ろから呼んでみる。


いつもみたいに、すぐに「何?」って言ってくれなくて、無視されたんだと思って胸がズキンと痛む。


だけど。


「何?」

少しの間の後、彼は足を止めて、振り返りながらいつものように返してくれる。

その表情は笑顔だった。


「え、と……」

「気にしなくていいから。元々フラれてたんだし。俺の往生際が悪かっただけ」


そう言って創太は私の頭に自分の右手をポンと置いた。

視界が涙で滲む。
駄目だ。泣いたら駄目だ。創太が笑顔でいてくれているのに。


長い付き合いだから分かるんだよ。創太が、無理して笑ってくれていることくらい。

だけど、私がこれ以上気を遣わないよう、無理して笑顔でいてくれてるんだろうってことも……。

創太のそういう優しいところが本当に大好きだった。
ううん……これからもずっと好き。その気持ちを口にすることは、もう出来ないけれど。
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