あなたの溺愛から逃れたい
「……え?」

思わず、それしか言えなかった。

口をポカンと開けたまま母さんを見つめると、母さんはおもむろに腕を組み、俺を真剣な眼差しで見つめる。


「もう、この旅館にいるのが辛いって。私も、大体のことは聞いたから、あなたたちの為にもその方が良いと思う。その方が、創太もお見合い相手にきちんと向き合えるでしょう?」

「ちょ、ちょっと待て」

淡々とそんなこと言われても、何が何だか理解することが出来ない。


「戻ってこないって何だよ。荷物まとめてこの家から出て行ったってことかよ?」

「そうよ」

「そうよじゃねえだろ。こんな言い方もあれだけど、身寄りもないのにどこに行ったって言うんだよ」

学生時代の友達の家? いや、数日ならともかく、友達の家でずっと過ごすなんて、少なくとも遠慮がちな逢子の性格なら有り得ないだろう。


すると母さんの口から飛び出したのは



「北海道よ」


という、耳を疑うような言葉だった。
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