あなたの溺愛から逃れたい
「まあ。大学では経営学を専攻されていたの?」
「はい。ですから旅館の運営でお役に立てることもあるかと」
「うちの娘は、料理も上手なんですよ」
「やだ、ハードル上げないでよママ」
旅館の一番広い客間を使って、この場は進められていた。
部屋の真ん中に置かれたテーブルに、両家が向かい合うように座る。
俺と恵美さんはそれぞれ真ん中に位置し、顔を上げれば正面に彼女がいる。
目が合って、ふっと笑ってみせると、彼女も笑い返してくれた。
「ちょっと創太、あなたさっきから殆ど話してないじゃない」
突然、右に座る母さんが肘で俺をつつく。
「全くもう。申し訳ありません、緊張しているんですよ、こういう場は初めてなもので」
母さんが誤魔化すようにそう言うと、江川さんたちも和やかに笑った。
その場で俺は。
「恵美さん。少し、二人でお話ししませんか?」
突然の提案に、その場にいた全員がきょとんとした顔を見せたがすぐに、
「うん、二人のことだからな。いつまでも私たちが一緒にいるよりも良いかもしれない」
と父さんが言ってくれた。
俺と恵美さん以外が皆で立ち上がって、部屋を出て行く。
六人が急に二人きりになり、まるで空気が変わった感じがした。
「あの、嬉しいです。創太さんの方から二人きりになることを提案していただいて」
恵美さんが少し身体を揺らしながら、ゆっくりとそう言葉を発した。
「最初はお見合いなんて……って思っていました。だけど、創太さんとお会いしたらとってもカッコ良くて、素敵な方で……。私、旅館のことや女将のことは分からないことばかりですが、勉強して立派に務めてみせます。だから、今後ともよろしくお願ーー」
「申し訳ありません」
彼女の言葉を遮って、俺は頭を下げた。