あなたの溺愛から逃れたい
「母さ……何でここに?」

「こんなことだろうと思って、戻ってきたのよ。正解だったわ」

そう話す母さんの表情は、俺に向ける言葉通り呆れた様子だったけれど、怒っている雰囲気もなかった。


「あんなに怒らせて。どうするのよ」

「自分から自分の口できちんと伝えるっていうのは、俺なりの誠意のつもりだぅたんだけど」

「誠意だか何か知らないけど、女心を分かっていないことは確かね。
でもまあ、私たちのいないところで二人きりで話したことだけは褒めるわ」

多分褒められてはいないけど、「どうも」とだけ返す。


「……でもやっぱり、父さんにとってはまずいことしたかな」

自分の気持ちに正直になったことに後悔はしていない。
だけど、父さんの顔に泥を塗ってしまったかもしれない。
相手との関係も悪くなったら申し訳ない。


「大丈夫よ」

「え?」

「父さんも創太の気持ちは分かってたから。そうなるかもしれないって、今頃あちらのお父さんに説明してくれてるわ」

「それって、父さんは俺と逢子のことを認めてくれてるってこと?」

「そんなこと言ってないでしょ。しかも、お母さんだけが反対してる悪者みたいな言い方はやめてくれる?

……ていうか。
今、創太が話すべき相手は私じゃないわよ」

え? とまた聞き返してしまう。


あれ? そういえば母さんの後ろに誰かもう一人……いる……?


ドキンと心臓が跳ねた。

そして、その期待は裏切られなかった。


「逢子……⁉︎」

そこにいたのは、北海道に行ったと聞かされている逢子だった。
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