あなたの溺愛から逃れたい
「周囲に反対されたって、それでもこの人を愛したいと思える女性に出会えたことは、男にとって誇っていいことだと僕は思っているよ」

私からの問い掛けだったけれど、旦那様は創太の方を見てそう答えた。

創太は「父さん……」と口にするだけで、言葉に詰まって何も言えない様子だった。


すると旦那様は今度は私の方を見て。


「そこまでお互いに想い合っているのなら、この先にどんな障害があったって乗り越えられるだろう。

それに、この旅館のことを知り尽くした逢子ちゃんから、問題なく女将業をつとめてくれるだろう。心配することなんて何もない」


身分とか、世間体とか、そういう問題だってあるはずなのに、旦那様は何も言わなかった。


私からその話にも触れようかと思ったけれど、それはしなかった。

出来なかった訳じゃなくて、しなかった。

だって、何を言われたって自分の気持ちはもう変えられないことが、自分自身でよく分かっていたから。



最後に、ちらっと女将の顔を見ると……女将も笑ってくれた。



「息子と娘が結婚するなんて、変な感じではあるけどね」


冗談で言っただけかもしれないけど、私はその言葉が本当に嬉しかった。


息子と娘。


旦那様。女将。私のことを引き取ってくださって、育ててくださって本当にありがとうございました。



恩を仇で返さないよう、いつかこの旅館を胸を張って任せていただけるような、そんな立派な女将になってみせます。



私と創太は向き合って、もう一度お互いに抱きしめ合った。
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