あなたの溺愛から逃れたい
「何それ。買ったの?」

「そう、買ったの。早く逢子のウェディングドレス姿が見たいなって。そう思ったら、逢子にはどんなやつが似合うかなって考えずにはいられなくなったんだよね」

そう言って創太はルンルンとしながらページをめくっていく。


だけど私は……。


「い、いいよウェディングドレスなんて。そもそも結婚式もするつもりないよ?」

「えっ⁉︎」

創太が首を勢いよく動かして、目を真ん丸くさせて私を見る。


「え。私、今、そんなに変なこと言った?」

「言ったよ⁉︎ 何、結婚式しないって! 俺たち、結婚するんだよな⁉︎」

「も、勿論だよ! 結婚はするよ!
でも、挙式は……。
何というか、そこまでしてもらわなくてもっていうか。
結婚を許してもらえただけで、私は凄く幸せだから」


そう。私は旦那様と女将に認めてもらえて、周りの人たちにも『おめでとう』って言ってもらえるだけでとっても嬉しいの。
結婚式なんて……この幸せに、更なる幸せを上塗りするような贅沢なこと、とてもじゃないけど考えられないよ……。


だけど創太は。


「駄目だね。俺が許しません。逢子が俺のお嫁さんだってことを皆に見せびらかしたいし」

と、まるで当たり前のようにそう言うと、再び雑誌のページをめくり始める。

うーん。創太にしては珍しく強引な感じ。
創太がこういう態度を取った時、彼は自分の意見を変えることはないだろうということが分かっていたので、私はそれ以上は何も言わなかった。


「じゃあ、選んでみようかな」

ちょっとだけ顔を覗き込ませてそう言うと、創太は嬉しそうに「そうこなくっちゃ」と笑った。
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