その男、極上につき、厳重警戒せよ

そんなことを、こんな出会ったばかりの人に言う気にはなれなかった。
だけど涙を堪えることもできなくて、俯いて声を立てずにいるのが精いっぱい。

向かいに座る彼は、明らかに困っている。
こちらに聞こえるような大きなため息をついて、頭をボリボリとかく。


「……どうやらアンタは何も知らないんだな」

「え?」

「でも俺から言うわけにはいかない。……泣かせて悪かったよ。食えって。でないと俺が女将に叱られる」


ちょっと拗ねたような顔は私の心臓を軽くキュンときしませたけれど、喉が詰まって食事なんて通らない。

しばらくそうしていたら、女将さんがシャーベットの載ったお盆をもってやってくる。進んでない食事を見て、じろりと深山さんを睨んだ。


「先にシャーベットはいかが? ひんやりしておいしいと思いますわ。大丈夫あなたは若くて綺麗だから、こんな男に泣かされて落ち込むことはないわ」

「おい。母さん」

「店では女将と呼びなさい。私の店に連れてきて女の子を泣かせるとか、どういうつもりなの」

「うるさい。俺が泣かしたわけじゃない」

「だったら誰よ」

「それは……ああもう」


彼は髪をくしゃくしゃとかきむしり、伏せ腐れたようにそっぽを向いた。

それの姿は、整った容姿から見ると意外な感じがした。

初めてあった人。
しかも完璧な容姿のとっつきにくい人。
そう思っていたけれど、女将さんがいてくれたおかげで、彼にも人間らしいところがあるのが分かってホッとする。

結局シャーベットを食べ終わるまで、彼は黙ったままだった。
そしてさわやかな酸味のそれを食べたとたんに、他のものも食べたい欲求が湧いてきて、結局私は出されたお料理をほぼすべて食べた。


「とてもおいしかったです」


両手を合わせて頭を下げると、彼は呆れたように私を見たまま、「悪気はないんだな、君は」と言った。


「まあ、君の気持ちは分かった。だけど俺も仕事だからな。悪いが少し強引にやらせてもらう」


そう言ったかと思うと、私を追い立てるようにして店を出て、アパートの前まできっちり送ってくれたのだった。

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