その男、極上につき、厳重警戒せよ
社長は、私が咲坂桐子(とうこ)の娘だと知っていたのだろうか。
内定を出したのは母の頼みだったから?
確認をしたかった。だけど一般社員が直接社長に話しかけることなどできない。
母が死んだことは会社に報告し、私はとれる限りの忌引き休暇をとった。
だから母が死んだことを彼が知らないはずはない。送金も、母の口座が凍結された段階で止まっている。
なのにどうして何も言わないの?
私には何の興味もないということ?
子供だと思うなら、せめて言葉をかけてくれたっていいじゃない。
初七日が終わってから、私は受付への移動希望を出した。
あなたの娘であるとみる人が見ればわかる顔を表にさらして、いつか誰かが、この男は隠し子を持っているのだと気づかないかと思いながら、笑顔を作る。
会社が傾くことを望んでいるわけじゃない。私の生活だって揺るがされるもの。
だからこれは、ばれてもばれなくてもいい秘密。
ただ、やり場のないもやもやとして気持ちのやり場として、このささやかで皮肉なゲームを私は毎日続けていた。
なのに……。
深山さんから言われたことは衝撃だった。
社長のスキャンダルが表沙汰になれば、たしかに問題だ。健康増進と食の安全をモットーとし、クリーンなイメージのあるわが社のイメージダウンは避けられない。
「私が移動するしか、ないの?」