その男、極上につき、厳重警戒せよ

「あのさ」


続けられる言葉には叱責が加わるのかも、と思うと震えてくる。怒られる前に謝るべきか、と大きく頭を下げたところで、エレベーターが到着する音がした。


「お待たせしました、深山様。こちらへどうそ」


まさかの有沢さん本人の登場に、私はビックリしてそっちを凝視してしまった。
深山さんは、すぐに有沢さんのほうへと向きなおり、さっきまでの怪訝そうな顔はどこへやら、口元に笑みを浮かべて、「やあ、有沢さん。いつもお世話になっております」と受付の前から離れ、彼女に挨拶をする。

そのままふたりはエレベーターに乗っていってしまった。


「なんだったんだろ」


私はひとり、途方に暮れる。まだ朝の十時だというのに、既にぐったり疲れてしまった。


「ごめん、ひとりで大丈夫だった?」


お腹の調子が悪いと化粧室へ行っていたもう一人の受付担当・西木(にしき)さんが帰って来て、ようやくホッと息がつけた。


「うん。なんか私もお腹痛くなってきちゃった。ちょっと変わってもらってもいい?」

「いいよ」

「凄く格好いい人がきたんだけど。なんか責められるみたいに言われて……私なにか失敗しちゃったのかな」

「えっ、本当? 見たかった!」


西木さんは“格好いい人”のところだけに食いついてくる。私は苦笑して彼女と交代した。

「今上がっていったばっかりだから、帰りに見られるよ。じゃ、ごめん。ちょっと行ってくるね」

受付のカウンター下に置いておいたポーチをもって、ロビー階の化粧室へと向かった。

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