その男、極上につき、厳重警戒せよ
突然の訪問です
高井戸さんのおかげで、午前中は楽しく過ごせた。
受付として自分が今まで気を付けてきたことをレクチャーし、高井戸さんからは、資料作成のコツなんかを教えてもらう。
「へぇ、栄養士の資格があるんですかぁ」
「でも結局資格を生かすことはできなかったんですけど」
「えーでも、主婦になったときに便利そう」
高井戸さんは年上だけど、高圧的でもないし自分を卑下し過ぎるところもなくて、とても話しやすかった。
男性が多い職場で、私と彼女の話声はそれなりに響いていたと思うのだけれど、数日だけだと思っているのか文句を言う人はいなかった。
ランチは高井戸さんおススメの近くの喫茶店で、「絶品ですよ」というオムライスを食べた。半熟の卵にコクのあるチキンライスがおいしくて、食後のコーヒーまでしっかり頂いたら、昼休みも時間ぎりぎりになってしまった。
そして戻ると、社長が待ち構えていた。
「高井戸さん。桶川が外出に付き合えって。会議だから議事録を取ってほしいそうだ」
「えー。桶川さん、自分でやればいいじゃないですか。今日はせっかく咲坂さんがいるのに!」
「アイツにそれがさせられたら俺は苦労していない」
ほとほと困ったという顔の社長は珍しく、私は思わず彼を凝視する。
すると、嫌そうに見返された。
「何見てるんだよ。……とにかく、そんなわけで高井戸さんは外出するから、君は受付業務をしていてもらえるかな」
「え? でも私、ここの正規社員でもないのに」
「出向中はうちの社員でしょう。社長命令だよ。どうせ来客は大して来ないから大丈夫だよ」
社長はあっさりそう言って自分は社長室へと入っていく。