その男、極上につき、厳重警戒せよ
困り果てて受付に座ってみるものの、実際はそんなに困らなかった。
来客はあまりなく、社員が外出するほうが多い。電話はちょこちょこ鳴るけれど、私がとる前に他の社員がちゃんと取ってくれる。連絡はどちらかと言えばメールのほうが多そうだ。
それでも一件二件電話を取り、行先ボードを見つめながら不在の旨を伝えたりする。
やがて午後三時を回ったころ、私の呼吸を止めるような来客がやって来た。
面長の顔に、うっすら白髪の混じった髪。目尻にはしわがあるけれど、メガネのせいかあまり目立たない。私に似た奥二重の瞳と上唇が大きい口。良く見慣れたその顔は、私にこの辞令を出した張本人だ。
「深山社長はおられるかな。株式会社TOHTAの遠田です」
「社長……」
それは、まさに疑惑の社長の登場だった。しかも、いつもは傍についている秘書も専務も一緒ではない本当のひとりで。
今まで二年も同じ会社に勤めながら、実際話をしたのはこれが初めてだ。
「あの、しょ、少々お待ちください」
私は慌てつつ、社長室に内線をかける。遠田社長来訪の旨を伝えると
『応接室に案内して差し上げて。受付は不在にしていいから、俺が行くまで相手をしていてくれないか』
と言われた。
「そんなの無理です。深山さ……」
『今は俺が上司だ。命令は絶対。頼むぞ』
有無を言わさず電話を切られる。
私は仕方なく、社長をちらりと見た。彼の表情には変化がない。辞令を出したにも関わらず、気遣うような言葉はひと言もない。私、ちゃんとTOHTAの社員だと認識されているのかしら。それすらも怪しく感じるほど、社長の態度が自然すぎる。