その男、極上につき、厳重警戒せよ


「……だったらどうしてお葬式に来てくれなかったの?」

社長の表情は変わらない。それがますます私の心を掻き立てた。


「私の、父なんですよね? 娘が天涯孤独になったというのに、無視したのはどうして? 愛人の子だから?
既に清算した関係だから? 成人していて後継人が必要なわけでもないから、放っておいていいって思ったんですか? あまりに薄情なんじゃないですか?」


恨み言は、どんどん口から湧き出してくる。
母が生きていたころ、父に会いたいなんて思ったことはなかったのに。
どうしてこんなに悔しいんだろう。


“母さんは静乃がいれば幸せだから”

嘘よ。知ってる。
夜中に起きて、お母さんが泣いているのを見たことがあるの。

私が寝ていると思って、安心していたんでしょう。
誰にも気づかれないように静かに、カーテンの隙間から空を見上げて、泣いてた。
ただ静かに流れた涙を、月明かりが照らしていて。

私は見てはいけないものを見てしまった気がして、気付かれないように部屋に戻った。

お母さんはきっと、あなたに会いたかった。
なのに最後まで会いに来てくれなかったのはなぜ?
お母さんが好きだったのなら、お金なんかより、傍にいてほしかった。

逆に別れられないくらい奥さんが好きだったのなら、他の女に手を出さないでよ。

私はいい。母がたっぷり注いでくれた愛情で満たされていたから。
だけど母は、きっと寂しかったに違いないのに。

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