その男、極上につき、厳重警戒せよ
ロビー階には入ってきてすぐのところに受付があり、一番奥にエレベータがある。向かって右奥に、ソファや打ち合わせ用の机やいすが並んでいて、簡単な要件ならば、担当者がここまで降りてきて、済ませられるようになっている。逆に言うとロビー階には事業系の部署は入っておらず、あまりひと気はない。だから化粧室はいつも空いていて、私にとっては便利なことこの上ない。
ピカピカに磨かれた洗面台に手をつき、ガラスに映る自分の姿を見つめた。
奥二重をアイラインを入れることによりくっきりと見せ、できるだけ大人っぽくなるようにメイクと髪形を整えている。特別綺麗だと思われることはないだろうけど、制服をきっかりと着込むことで、受付嬢として清潔感は保っているはずだ。
当初、総務で庶務業務を担当していた私が、受付に移動したのは今年になってからで、そろそろ三ヶ月になる。
あまり人と話すのが好きじゃないのに、受付へと志望したのにはきっかけがあったわけだけど……。
「……別に、おかしいところはなかったよね」
敢えて言うならネームプレートはちょっと曲がっていたかな。でもそこまで細かいことを、来客に言われることはないと思う。
安全ピンを止めなおして、気を取り直して戻ると、西木さんがふたりの男性客を相手にてんやわんやになっていた。
「ですからぁ。お約束のない場合は取り次げないんです」
「今近くを通りかかったもので、少しだけ。聞いてみてもらえませんか?」
あらあら。大変だ。
たまにアポなしで訪れる人がいるけれど、わが社は基本アポなし営業は受け付けていない。
だけど受付相手だと甘く見る人が多いのも事実。
私は急いで総務部に内線をかけ、部長に来てもらう。