その男、極上につき、厳重警戒せよ

出たところで、高井戸さんと桶川さんと亀田さんがそっぽを向いてしらばっくれているのが見えて、泣きたかったはずなのに笑ってしまった。


「……覗きですか?」


私の問いかけに、三人三様に反応する。


「あっ、バレてる。ごめんなさいー」

「だって気になるじゃんか、ねぇ桶川さん」

「どうせバレるんだからもっと堂々と覗いてりゃ良かったじゃん?」

「皆さん、……仕事中でしょ。ホント……緩いなぁ、この会社」

「あ、あー、咲坂さんは私の指導担当ですよー。こっちで私にいろいろ教えてくださいー!」


笑いながら涙をこぼした私を、小柄な高井戸さんが引っ張っていく。
みんなに泣いているのを気付かれないように、気を使ってくれたのかなと思えば嬉しかった。

その後、なぜか亀田さんがコーヒーを持ってきてくれて、桶川さんは三十分後に有名パティシエのいるケーキ屋さんからケーキを買ってきてくれた。

だからみんな、仕事はどうしたのって思いながらも、社長が帰ったのも気づかないくらい構ってもらえて、なんだかありがたかった。

だって、お見送りなんてしたら、もっと泣いちゃいそうだもの。





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