その男、極上につき、厳重警戒せよ
笑顔は接客の基本です
三日間の出向は無事に終了した。
というか、受付業務のレクチャーをしたのなんて最初の数時間だけで、後は社長室の掃除をさせられていたようなもんだ。
「これで、いいですか?」
「随分すっきりした。助かったよ」
「私が見てよかったんですか、この辺の書類」
「君は知識がないからどうせ読んでも分からないだろう?」
たしかにね。IPアドレスとかゲートウェイとか、見ても内容なんて全然分からないから、同じ資料が複数閉じられているところから重複部分を抜き出したりとか、単純なことしかしていない。
「……会社辞めて、どうする気なんだ?」
「深山さんには関係ないです」
「君は恩人の娘だ」
「だとしても、助けたのは父であって、私じゃないです。深山さんに恩義を感じてもらうことなんてありません」
「じゃあ」
突然視界が暗くなった。横を向くと、壁に手をついた深山さんが真剣な顔で私を見ていた。
あ、やっぱり気になる、眉毛の傷跡。
なんだか見入ってしまうもの。
「俺が君を心配だからって言ったらどうする?」
熱っぽい瞳に見つめられて、勘違いしそうになるけれど、いつかの会話を思い出して躊躇する。
「深山さん、私を口説く気はないって言ったじゃないですか。からかわないでください」