その男、極上につき、厳重警戒せよ
二分くらいで一つ上の階から体格のいい部長が現れ、じろりと一瞥し、一通り話を聞いてから「お客様。折角ですが……」と申し出る。
男性がこう言うだけで、ふたりの営業さんは平身低頭の構えになるから不思議だ。
西木さんだって同じ内容のことを言っていたはずなのにね。
「大変だったな、西木さん」
「ええ。あー、咲坂さん、部長を呼んでくれてありがとう!」
「いえいえ。お互い様ですもん」
「なーんでああいう輩って女だと思うと強気にでるのかねー。イケメンでもああいうのは嫌だな」
分かる。女の人を見くびらない男の人って素敵だと思う。
少なくとも、他所に愛人と隠し子をもうけるような、妻にも愛人にも失礼な男だけはごめんだ。
やがて部長も戻っていき、受付にも平穏な空気が戻ってきた。
そして一時間ほどたったころ、「ありがとうございました。深山さま」と甲高い声が聞こえた。
振り向くと、エレベータから、有沢さんと先ほどのイケメンが出てくるところだった。
「あ、さっき言ったイケメンって、あの人ですよ」
耳打ちすると、西木さんが顔をあげ、ああ、と頷いた。そのうちに「どうも」と深山さんが通っていくので、ふたりで神妙な顔を取り繕って頭を下げる。
その時、ちらりと彼が私を見たような気がしたのは、やっぱりちょっと自意識過剰なんだろう。
西木さんは「なーんだ」とちょっと残念そうに息を漏らす。