その男、極上につき、厳重警戒せよ
そして私は翌日から、職探しに奔走した。
ハローワークに行き、そこでまず自分の甘さを突き付けられる。
志望動機は? どういう仕事をしたい?
そんな根本的なところから自分を見つめなおさなきゃいけなくて。
今までどれだけ甘えて生きてきたのかを思い知らされた。
それでも、貯めた預金に母の遺産。私には、やり直すだけの時間とお金が残されている。
やはり恵まれた環境だと言わざるを得ないだろう。
そして……
私はようやく就職先を見つけた。
栄養士の資格を生かしたくて、食堂や給食センターなんかの職種を探していた時、とある求人情報に出会ったのだ。
今度こそ、運命だと思えた。
だってこれは、自分で動いた結果で見つけたものだから。
すぐさま履歴書をもって面接に向かった。
彼女は驚いていたけれど、私の経歴を見て、頷いた。
「研修期間が一ヵ月。その間お給料は八割です。接客経験がないのは心配だけど、あなたには栄養士として食材の知識もある。私はね、お料理の良さを伝えることのできる仲居を育てたいの。ぜひあなたに頑張ってもらいたいわ」
「よろしくお願いします」
新しい勤め先は、料亭【ミヤマ】。
私はここで、仲居として新しい一歩を踏み出した。
勤めて一ヵ月。失敗もしたけれど、女将さんは厳しいけれど面倒見がよく、ようやく今日から研修期間を開け、正社員として仕事をさせてもらえる。
「ほら、お客がくるわよ」
「はい。いらっしゃいませ」
深くお辞儀をして、お客様が入ってくるのを待つ。
相手は途中まで電話をしていたのか。話しながら暖簾をくぐった。
その声を聴いて、あれ、と思う。