その男、極上につき、厳重警戒せよ
「……ったく、急に呼び出すとはどういうことなんだか。もういい、着いたから切るぞ。……すまない、桶川の名で予約を……」
彼の声が止まる。私もゆっくりと顔を上げた。
ここに勤めていればいつかは会えるだろう。
そう思っていた彼が、驚きの表情と共にそこにいた。
私だってびっくりだ。
まさか、こんなに早く会えるなんて。
相変わらずの整った顔に、傷の後の残る眉毛。
私を上から下まで見て、「なんだよ」と腑抜けたような声を出した。
「いらっ……しゃいませ」
「はっ? え? ここに勤めたのか? 聞いてないぞ?」
「今日から正式採用です。深山様、ご予約はございますか? お部屋にご案内いたします」
「ああ。桶川の名で……ああもう、あいつもグルか」
頭をかきむしる深山さんに、笑いたくなりながらも、部屋に案内する。
予約表を見れば、確かに桶川さんの名前で予約されている。しかし彼はまだ来ていない。私は席を勧めてお茶を準備した。
「桶川さんがいらっしゃるまでお待ちくださいね。……言っておきますけど、私も知りませんでしたからね! 多分、高井戸さんと桶川さんがグルだったんではないですかね」
「あとはうちのババアな」
「勇気ありますね、深山様。女将が聞いたら大変なことになりますよ?」
「君が言わなきゃいい」
「無理ですよ、私の雇い主は女将です」
「だったら」
ぐい、と手を引かれる。湯呑を倒しそうになって、慌てて手を離した。
一度はバランスを崩しそうになった湯呑は、茶托の中に何とか納まる。