その男、極上につき、厳重警戒せよ
「雇い主を裏切りたくなるくらい、俺に溺れさせればいいんだろ?」
彼はきっと、自分の魅力を十分に分かっている。
なんでも言うことを聞いてしまいそうになるほど、女性を魅了する美しい微笑みで、そんな風に仕掛けてくる。
でもきっと、それで頷く女の人には、なびかないんだろうな。
面倒くさい人。
モテるのになんだか損してるみたい。
「……駄目です。私は女将を尊敬しているんですから。深山さんこそ、もっと別の落とし方してください」
理性をフル動員してつくる、営業用のスマイル。
どうだ。これが今まで受付で培ってきた能力よ。
「はは。面白い。こっちはいつ会えるかって気をもんでたってのに余裕だな」
「別に余裕ではないです」
「だったら、今日は何時に終わる? 十二時間以上は待たない」
「二十二時には、片づけまで終わります」
「じゃあその後はあけとけ。知り合いのやっているバーに行こう」
「飲むんですか?」
「もちろん。もう仕事上のしがらみもない。女を落とすときは、こんなかしこまった店じゃなくて、それに向いた場所に行かないとな」
見るものの胸をわしづかみにするような端正な顔で、目に色気を乗せて笑う。
自分がイケメンだって知っている人は怖いな、なんて思いながら私は早々に部屋から退散した。
表に出れば、女将さんがにっこり笑って立っていて驚いた。
「まあ、あの子は、悪い子じゃないわよ」なんて笑うあたり、この人もいい根性しているなって思う。