その男、極上につき、厳重警戒せよ
俺は基本的に、待つのは苦手だ。
気になることは、出来るだけ早く片付ける主義だし、幸いにも実行力も発想力もあった。
思いったったらすぐ行動。失敗したらすぐに打開案を打ち立てる。
就職してからもその気質は変わらず、頭の固い重役からは目の敵にされ、それならばと三年で退職し、その後起業した。
社長という役職は、自分の考えをすぐ行動に移せるという意味で最適だった。
成功ばかりではない。けれど立ち止まらなくてもいい。
そんなわけで、これまでの人生で待ちの体勢に入ることはあまりなかったのだ。
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午後四時、融資を受けている六十六銀行の応接室で、今後の融資計画について相談をした後、担当者と入れ替わるように入ってきた松田副頭取に肩を叩かれた。
「お孫さんと、……ですか?」
「ああ。君、いつもパーティにひとりで来るだろう。ああいう場は本来女性を同伴するものだ。海外からの顧客も来るしね。良かったら……だが」
二週間後に控えている、海外服飾ブランド【Gentle】の新店舗オープンのパーティだ。うちの会社も六十六銀行も付き合いがあるので呼ばれている。三年ほど前に日本進出を果たし、順調に十店舗目をオープンするらしい。
何度かパーティに呼ばれたことがあるが、たしかに他の出席者は妻同伴であることが多い。しかし俺は独身だし、ということで今まではひとりで出席していた。