その男


「ねえ、片桐くんは寝る前最後にすることは何?」

 うーん、と真剣に考え込む片桐の横顔をそっと見つめる。

 大人の男と少年の顔が混ざった表情。

 自分とは違いそれが自然に共存しているように見える。

 この人だったらアンバランスな大人の女と少女の自分を融合させてくれるかも知れない。

「トイレに行く!あ、いや、目覚ましを確認する」

 片桐のすべてが愛おしく思えてくる。



 電車がホームを離れる。


 あと二駅。


 二人きりの時間。


 何か話さないともったいないと思ったが、何も話さず並んで電車に揺られるのも悪くない。



 今、自分の横に片桐がいる、それだけで美穂は自分の中の頑なさが解けるように感じた。





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