その男
美魔女陽子
午後七時ちょうどにbarの扉を開ける。
「陽子さんいらっしゃい」
少し低めの艶のある声に一瞬鳥肌が立つ。
入り口の傘立てに傘を預け、まだ誰も座っていないカウンターの一番奥、いつもの席に陽子は腰を下ろした。
「外けっこう降ってますよね」
「ええ、三十分くらい前から急にね、ケンちゃん、いつものお願い」
シェイカーを振る腕にうっすらと浮かぶ筋肉に陽子は視線を這わせる。
「どうぞ」
目の前に置かれたのはいつもと違うカクテルだった。
「あら、いつものじゃないじゃない」
「今日の陽子さんはこんな感じだから」
淡い黄緑の中に赤いチェリーが沈んでいる。
「こんな感じってどんな感じ?」
「いつもより綺麗だってことだよ」