その男


 美貌と一緒に手に入れた一人の夜は思いのほか寂しかった。

 でも夜を涙で濡らしたのはもう過去のこと。

 今はいないくらいがちょうどいい。

 十分すぎる財産に人の羨む生活、これ以上望むのは罰が当たるというものだ。



「女のとこ?」

「それ以外どこに行くって言うの?」

「じゃあ、ぼく達も今晩どう?」

 陽子はできるだけ余裕のある素振りで笑みを作った。

「馬鹿ね」

 賢一が本気でないのは分かっていた。

 なんて狡くて、いやらしい男だろう。

 淡い黄緑の液体を口に含む。

 赤いチェリーが揺れる。
 



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