その男
母は一通り小言を言うと気がすんだのか、弟の子ども達の話を嬉しそうにしながら、洗濯機をまわしYシャツ全てにアイロンをかけてくれた。
「あんたこのアイロン立派やねえ」
母はいつも変なところに感心する。
「高かったやろう」
「普通だよ」
泊まっていくのだと思っていたら、母は今日中に帰ると言う。
帰り際、東京にも売っている地元のあひる饅頭を三箱も置いていった。
「会社の人に配りなさい」
全国ではこの銘菓が東京土産として知られていることを母は知らない。
「うん、ありがと」
母の傘は骨が二本曲がっていた。
「これさしていき」
コンビニの透明傘だが買ったばかりのそれはまだ新しい。
「お母さんはこれでいいけん」
曲がった傘をさす母の小さな背中を見送り部屋に戻ると少しだけ切なかった。