その男
母が帰って一週間もしないうちに部屋はまるで元通りになった。
一週間あれから一度も開けなかった窓を開けた。
湿った風と一緒に雨粒が降り込んで来たのですぐに閉めたが、少し考え十センチ程だけ開けた。
「結婚やってさ」
ぼくはミドリに話しかける。
ぼくの一番心休まる時間は彼女と一緒に過ごしている時だ。
彼女と出会ったのは半年前。
ぼくの一目惚れだった。
出会った瞬間ぼくの体は一瞬ぶるっと震えた。
ミドリとの時間は少しだけ切なくて、三分の一は優しくて、残りは甘さでできていた。
半年経ってちょっとだけ甘さが減り、その代わり信頼という気持ちがぼくの中に生まれた。
ミドリだけが本当のぼくを知っていた。
彼女は多くを語らなかったがぼくを見る澄んだその目がそう言う。
「分かっているから」と。