その男
 

 母が帰って一週間もしないうちに部屋はまるで元通りになった。

 一週間あれから一度も開けなかった窓を開けた。

 湿った風と一緒に雨粒が降り込んで来たのですぐに閉めたが、少し考え十センチ程だけ開けた。
        
「結婚やってさ」

 ぼくはミドリに話しかける。

 ぼくの一番心休まる時間は彼女と一緒に過ごしている時だ。

 彼女と出会ったのは半年前。

 ぼくの一目惚れだった。

 出会った瞬間ぼくの体は一瞬ぶるっと震えた。

 ミドリとの時間は少しだけ切なくて、三分の一は優しくて、残りは甘さでできていた。

 半年経ってちょっとだけ甘さが減り、その代わり信頼という気持ちがぼくの中に生まれた。

 ミドリだけが本当のぼくを知っていた。

 彼女は多くを語らなかったがぼくを見る澄んだその目がそう言う。




「分かっているから」と。



< 26 / 51 >

この作品をシェア

pagetop