その男
代官山にあるお洒落な本屋の一角で“あの人”は粉雪の散らつく中、白いベンチに座り本を読んでいた。
鼻筋の通った白い横顔、伏せられた目の下に影を作るほどの長い睫毛。
一目見た瞬間に芽以は恋に落ちた。
けれど“あの人”の恋の相手は芽以であってはならなかった。
どんなに愛らしい少女でも魅力的な大人の女でも駄目だった。
“あの人”の恋の相手は薄いひょろひょろとした男の人でないといけないのだ。
そうでないと世界が成り立たないのだ。