その男
どうして。
瞼の裏の“あの人”の唇を固くて冷たい紙コップのふちから想像しようとするが上手くいかない。
どうしてわたしは。
芽以はゆっくりと目を開け空を仰いだ。
灰色の重そうな雲に見下ろされている。
男に生まれてこなかったのだろう。
雲の向こうにいるかもしれない何かに訴える。
どうしてわたしは女に生まれてきてしまったのだろう。
本屋のガラス窓に映る自分。
ぽっちゃりの体に小さな目と丸い鼻、頬には白い芯のあるニキビができている。
顔を背けたくなるほど醜い。
女、それも美しくない女だ、わたしは。