その男
芽以はいつだったか陽子が言った言葉を思い出した。
「芽以ちゃん、女はね恋をすると綺麗になるのよ。芽以ちゃんも本当の恋をすれば蛹から蝶が孵えるように綺麗になるわよ」
「陽子さんとわたしとでは元々の素材が違いますよぉ」
なぜだか陽子は寂しそうに笑った。
「人を魅了する美しさは目で見えるものではなく、匂い立つものなのよ」
「意味が分かんないですぅ」
「恋をしたら女の子は魔法にかかるの。その魔法こそが美しさの素なのよ」
魔法は目に見えないでしょ、と陽子は片目を閉じウィンクをした。