その男
テンションが明らかに落ちたテーブルに芽以がおずおずと申し出る。
「わたしはちょっといい事ありました」
陽子と美穂の目の奥が光る。
芽以は“あの人”の飲んだコーヒーカップを手に入れたことを喜々とし話し始めた。
が、カップを家に持ち帰り毎日眺めているというあたりになると、二人の目の輝きは失せ、代わりに曇った哀れみの色が浮かんだ。
「芽以ちゃんまさかその紙コップで間接キスとかしなかったでしょうね」
美穂が眉間にシワを寄せる。
「それはないわよね、だってゴミ箱に捨てられたやつでしょ」
と陽子は代弁したつもりなのだろう。
「でも、そうだったらキモイ」
二人は同時に同じ言葉を吐き、顔を見合わせた。