その男
「片桐くんって休みの時はいつもそんななの?」
美穂の横で芽以が激しく頭を上下に振る。
「そんなって何です?」
「いや、会社ではすごくきっちりしてるじゃない」
「仕事とプライベートは別ですよ」
「本屋に来てるときは?」
芽以が美穂の影に隠れるようにして言った。
「ああっ、そうだ君、よく代官山の本屋で見かける子だ。どこかで見たことがあると思ったんだ」
片桐賢一は小さくため息をつき、ぐいっとビールを飲み干すと、缶をゴミ箱に投げ入れる。
それを見た芽以は目眩を感じた。
「とにかく、ぼくこれからいろいろすることあるので」
では、と片桐賢一は三人に背を向け歩いて行ってしまった。
三人はしばらくその後ろ姿を見つめていたが、通りの向こうに影が消えると、
「帰ろうか」
そう言ったのは陽子だった。
美穂と芽以もそれにうなずく。