その男
コンビニで買って来たビールを一本新しく開け、残りを冷蔵庫にしまうと部屋の窓を開ける。
「今日は天気がいいけん甲羅干し日よりやね、ミドリ」
片桐賢一は水槽を窓際に寄せた。
「にしてもさっきはひどい言われようやったよ」
ビールを一口飲み、スルメを口に加える。
ギョロリとミドリの目がスルメを追う。
「童貞とかホモとか訳分からんわ」
確かにBarではちゃらい男を演じたところはあるかも知れないが、バーテンダーってそんなもんじゃないだろうか?
普段からあまり自分を出す方ではないが、まさかここまで誤解されているとは思わなかった。
ふと不安になる。
今こうしている自分は本当の自分だろうか?
「いや、いや、いや、いや」
首を激しく横に振る。
童貞でもホモでも女たらしでもない自分は本当の自分だ。
それだけははっきりしている。
だが....。