その男
「篠崎さんにはぼくは童貞に見え、陽子さんには女ったらしに映り、あのおたくっぽい女子高生はぼくをホモと思ってたんやなぁ」
顎に手を当て今朝剃り残した髭に触れる。
「でもそれって、そのまんま三人を映した感じじゃないか?ぼくやなくてさ」
彼女らはぼくの中に自分の一部を見いだし、そこから何かを探そうとしたのではないだろうか?
「それにもしかしたら」
独り言ちる。
ぼくにもその要素みたいなものがあるのかも知れないな。
ぼくが気づかないだけで。
今までぼくは自分を分かっていると思っていたけど、意外とそうじゃないのかも知れない。
もしかしたら、
「内なる自分と他人から見た自分の両方で、本当の自分なのかも知れないなぁ」
ぼくは声に出してそう言ってみた。
ビールの缶を凹ませパコンと音を鳴らす。
「ミドリにはぼくはどんなに映っとうんやろ」
甲羅を指で撫でるとミドリは気持ち良さそうに目を閉じた。